JYP新社屋プロジェクトはとん挫した?何が起きているのか
ソウル・江東区の高徳ビズバレーに計画されていた「JYP新社屋プロジェクト」が、事実上の白紙化に向かっていることが明らかになりました。 2026年4月には江東区から建築許可が下り、同年下半期の着工に向けて準備が進んでいたはずでしたが、9月9日にJYP側が設計事務所へ「事業撤退」の意向を伝達したと報じられています。JYP公式側は現在も「多角的に議論中」としていますが、内部的には計画の中止に大きく傾いている状況です。そして10月8日に正式に事業が撤退と発表されました。現事務所の近くを購入することに計画が変更されました。
- どのような建物だったのか
- なぜ頓挫したのか
- 個人的になぜ現状の新社屋のプランが賛同できないのか
- 新社屋が頓挫した今、JYPはどんな計画を立てるべきなのか
- ソウルの事務所の予算を削った分どうしたらいいか?
- 練習スタジオと配信スタジオ、撮影スタジオの全てを東京にすべきなのか
- 東京以外のどこに撮影や練習スタジオを作るべきか
- 神戸ならどこに作るのか?
- 神戸コンテンツ制作拠点の建築仕様書
- JYPは「アンカーテナント」になる
- では、誰と組むのがいいのか
- 次に重要なのが三井不動産
- SMBCには「資金調達」の部分で参加してもらう
- 重要になるのが神戸市
- 神戸なら「土地+空港+産業拠点」の組み合わせができる
- ASICSや川崎重工も「部分参加」なら面白い
- 最も重要なのは「JYP専用施設」にしないこと
- 「JYPの建物」ではなく「アジアの制作インフラ」に
どのような建物だったのか
もともとこの新社屋は、単なるオフィスビルではなく「K-POP企業・市民・ファンが共存する文化拠点」という壮大なコンセプトを掲げていました。 敷地面積約1万㎡、地下5階・地上17階、延床面積は約69,259㎡という巨大規模。具体的には、約800席の公演場、大型練習室、大講堂、一般に開放される文化・休憩スペースなどを完備する計画でした。 また、設計には著名なユ・ヒョンジュン教授らが参加し、「どの部屋からも外が見える開放的な造り」や、J.Y. Park氏肝いりの「オーガニック食堂」を拡張し、撮影現場への弁当提供まで対応させるなど、実用性と独創性を兼ね備えたJYPらしい拠点になるはずでした。
JYP、ソウル高徳新社屋の建設を撤回「現在の城内洞近くで建物購入へ」(公式)
— Kstyle (@Kstyle_news) October 8, 2026https://t.co/50fAQv6GtF https://kstyle.com/article.ksn?articleNo=2285019
なぜ頓挫したのか
では、なぜ建築許可まで出ていたプロジェクトが突然頓挫したのでしょうか。その核心は、社屋のすぐ隣にある「土地の用途変更」にあります。 JYPが土地を購入した際、隣接地(約13,261㎡)は「公園」になる予定であり、設計は「公園に面した開放的な社屋」という思想で組まれていました。しかし、その後、この公園用地の一部が商業・業務系の土地に変更され、そこには容積率400%の18〜19階建ての高層ビルが建設可能になりました。 つまり、「社屋 → 公園 → 高層ビル」という想定が、「社屋 → いきなり高層ビル」という状況に変わり、設計の根幹である「開放感」や「街に開かれた空間」というコンセプトが完全に崩壊してしまったのです。 JYP側は「建物の高さを制限してほしい」などの妥協案を提示しましたが、ソウル住宅都市公社(SH)がこれを受け入れなかったため、最終的に撤退という苦渋の決断に至ったと考えられます。
個人的になぜ現状の新社屋のプランが賛同できないのか
なぜ、現状の新社屋プランに強い違和感を抱くのかというと、今の計画がJYPのアイデンティティであるはずの「謙虚・堅実」ではなく、業界のトレンドに飲み込まれた「形式主義」に陥っていると感じるからです。
いま、ソウルのエンタメ業界では、大手芸能事務所は立派な事務所を構える風潮があります。巨大な吹き抜け、豪華な外装、権威を象徴するランドマーク的な建築。それらは確かに資本力の証明にはなりますが、同時に「見栄」という名のコストを増大させます。もしJYPが、他社が建てたから、あるいは大手企業として相応しいからという理由で「豪華な箱」を追求しているのであれば、それは本来のJYPらしさとは正反対の方向へ向かっていると言わざるを得ません。
JYPの真の強さは、常に政治とは一定の距離を保つ「独立独歩」であり、効率的なシステムを構築し、魅力的なアーティストの育成という本質に理念と資本を集中させてきた点にあると思います。建物はあくまで、最高のコンテンツを生み出すための「ツール」であるべきです。しかし、現状のプランだとツールとしての機能性よりも、外部からどう見えるかという「象徴性」に比重が寄りすぎているように見えます。
豪華なエントランスや装飾的な空間に投じられる膨大な資本を、例えば最新の制作設備や、アーティストが心身ともに最高の状態で集中できる環境、あるいは次世代のIP育成へと振り分ける。それこそが、合理性を重んじるJYPが取るべき戦略だと思うわけです。
デベロッパーのような「立派な建物があること」が成功の証なのではなく、JYPは芸能企業なので「地味な建物から世界最高のコンテンツが次々と生まれること」こそが、最強のブランドになると思います。JYPには「見栄」を捨て、徹底的に「機能」に特化した、真の意味で実質的なインフラとしての社屋が必要です。
形から入るのではなく、中身から定義する。その逆転の発想こそが、今のJYPに必要であり、かつ最も「JYPらしい」アプローチであるはずです。
新社屋が頓挫した今、JYPはどんな計画を立てるべきなのか
JYPの新社屋計画が頓挫した今、改めて考えたいのが「本当に必要な施設とは何なのか」ということです。
個人的には、計画をそのまま縮小するのではなく、むしろこの機会に韓国内の機能と海外の大型制作機能を分離するという考え方が面白いと思います。
韓国国内については、巨大な本社ビルを一つ建設するよりも、**「レコーディング+ライブハウス+小~中規模スタジオ」**を音楽文化の中心地に作るほうが、JYPらしいのではないでしょうか。
候補地として考えられるのが聖水洞と弘大です。
聖水洞はブランド性が高く、ファッションやカルチャーの発信地としても存在感があります。一方、弘大はライブハウスやクラブ、インディーズバンドなど音楽文化が非常に盛んな地域です。特に「バンド文化の聖地」という意味では、弘大との相性は非常に良いでしょう。
例えば、本来の新社屋計画に含まれていた機能を整理し、
地下:500~800席程度のライブホール
中層:レコーディングスタジオ・練習室
上層:オフィス・アーティスト関連施設
という構成にする。
さらに近隣の別施設に小型スタジオや制作スペースを設ければ、巨大な一棟のビルにすべてを詰め込む必要もありません。
これならJYPは、常にK-POPや韓国の音楽文化の中心から情報を発信することができます。
一方で、大型スタジアムやドーム公演のための大規模リハーサル施設、大型MV・ドラマ・映像作品の制作設備については、韓国ではなく日本に大規模な拠点を作るという方法があります。
例えば国際空港からアクセスしやすく、東京よりも広い土地を確保しやすい地域に、巨大なリハーサルスタジオやLEDスタジオを集約するのです。
これは非常に合理的な機能分担だと思います。
すべてをソウルに集約して、幕張メッセのような巨大施設まで作ろうとすると、土地代や建設費が大きくなります。しかも、その巨大な施設を常に100%稼働させられるとは限りません。
それならば、韓国には「音楽文化を発信する拠点」を作り、日本には「大型制作を行う拠点」を作る。
この二拠点体制のほうが、設備投資を目的別に最適化できます。
そして、韓国側のライブホールについても、単なる貸しホールにしてしまうのはもったいありません。
ここで重要になるのがDAY6の定期公演です。
例えば毎月決まった日にDAY6がライブを開催する。いわゆるラスベガスのSphereなどで行われている「レジデンシー公演」のように、特定の場所で定期的に公演を行う仕組みです。
毎月必ずDAY6が出演するとなれば、「JYPのライブホールに行けばDAY6が見られる」という独自の価値が生まれます。
さらに、週1~2回程度は韓国の新しいバンドやインディーズアーティストが出演するイベントを開催する。
「ここに行けば、まだ知られていない面白いバンドに出会える」
そんな場所になれば、単なるJYPの所有施設ではなく、韓国のバンド文化そのものを育てる場所になっていく可能性があります。
小規模ライブからスタートし、徐々に中規模会場へ進み、最終的にJYPのライブホールで公演する。
日本でいうZeppのように、「この会場でライブをすること自体が一つのステータスになる」というブランドを作ることもできるでしょう。
さらに面白いのは、ここで過去にライブをしていた若いバンドが、将来的にDAY6のような人気バンドへ成長するというストーリーです。
「あのバンドも昔、このライブホールでライブをしていた」
そんな歴史が積み重なれば、建物そのものが韓国のバンド文化の記憶を持つようになります。
新社屋の豪華さを競うのではなく、アーティストが育ち、ファンが集まり、音楽の歴史が生まれる場所を作る。
それこそが、JYPが次に目指すべき新しい拠点の形なのではないでしょうか。
そして何より、この考え方なら、巨大な建物のデザインに多額の資金を投入するよりも、アーティストのプロモーション、MV、コンテンツ制作、海外展開といった、JYPの本業に直接つながる分野へ資金を振り向ける余地も生まれます。
「大きな建物を作る会社」ではなく、「大きな音楽文化を作る会社」。
新社屋計画の見直しを、そんな方向へ転換するきっかけにしてもいいのではないでしょうか。
ソウルの事務所の予算を削った分どうしたらいいか?
て、ソウルでの「見栄」を削ぎ落としたとき、その浮いた資本をどこに投下すべきか。それなら迷わず「日本に本格的なドームクラスの練習スタジオと配信スタジオを構えること」に投資すべきだと思います。
いま多くのK-POP事務所は、日本を単なる「ライブ会場がある市場」として見ている。でも、それはあまりにももったいない見方です。日本という世界第2位の音楽市場に、単なる営業所ではなく、「制作の心臓部」であるスタジオを置くメリットは計り知れないからです。
まず、圧倒的な「スピード感」と「効率」が変わります。 現状、アーティストが日本活動をするたびに韓国から人を運び、現地のスタジオをレンタルし、スタッフが奔走しています。これではコストも時間もかかりすぎるし、何よりアーティストの心身に負荷がかかります。日本に最高水準の練習スタジオがあれば、現地でのクオリティコントロールが完結します。移動のストレスをゼロにし、その時間を練習やクリエイティブに充てられます。これは競争力に直結するはずです。
そして、さらに重要なのが「配信スタジオ」の整備。 今の時代、コンテンツの主戦場はSNSやストリーミングにあります。世界中のファンが待っているのは、完璧にパッケージ化されたMVだけでなく、日常的な高画質・高音質の配信コンテンツ。 日本には世界最高峰のAV機器や配信インフラを持つ企業(ソニーなど)が集まっています。こうした日本の技術資本と組み合わせて、24時間365日、世界へ向けてコンテンツを量産できる「配信拠点」を持つことは、最強の武器になります。東京に小サイズながらビデオウォールなどもある配信できるスタジオをもって貸し出しも行うと稼働率も高くなり、利益を生み出す施設となるはずです。
つまり、「ソウルでIPを育て、日本で世界向けにコンテンツを量産する」というハイブリッドな構造を作るということだ。
豪華な本社ビルを建てて「ここに本社があります」と誇示することに意味はありません。それよりも、「世界最高峰のスタジオがあり、そこから次々と最高品質のコンテンツが世界に配信されている」という状態を作る方が、よっぽど合理的で、ブランド価値を高めるといえるでしょう。
「形」にこだわるのではなく、「出力」にこだわる。 日本に本格的なスタジオを構えることは、単なるエリア拡大ではなく、JYPが「グローバル・エンタメ企業」として脱皮するための、最も実質的な投資になるはずです。
練習スタジオと配信スタジオ、撮影スタジオの全てを東京にすべきなのか
さて、ここで一つ突き詰めて考えたいのが、「そのスタジオをどこに置くか」という問題。
単純に考えれば、すべてを東京に集約するのが正解に見えます。業界の人間も、メディアも、アーティストの住まいも東京にあるからです。でも、あえて「配信スタジオは東京に、練習・本格撮影スタジオは別の地域に分ける」という二分化戦略を提案したいと思います。
なぜか。それは、東京という街が持つ「性質」と、最高品質の制作に求められる「環境」が、根本的に矛盾しているからです。
まず、東京に置くべきは「配信スタジオ」です。 配信の肝は、スピード感とネットワーク、そして「誰がすぐに集まれるか」ということ。急遽、ゲストを呼んで配信したり、メディア関係者と連携したりするには、東京のど真ん中にコンパクトで高機能な配信拠点を構えるのが正解です。ここは「顔」としての機能であり、世界へコンテンツを送り出す「送信塔」のような場所。ここには過剰な広さは不要で、最先端の通信インフラと機動力があれば十分です。
一方で、「練習スタジオ」と「本格的な撮影スタジオ」は、東京の外に置くべきです。 最高水準のライブの練習や、巨大なLED壁面を使ったバーチャルプロダクション(VP)を東京のビルの中でやろうとしたら、どれだけのコストと制約が生まれるか…。天井高の確保、騒音問題、そして何より、都心の異常な地価。これらに予算を割くのは、またしても「見栄」に金を払うことと同じと言えます。
もし、神戸のような地方都市に、広大な敷地を確保した「制作キャンパス」を作ることができれば、話は変わってきます。 アーティストは喧騒から離れてトレーニングに没頭でき、撮影スタジオには物理的な制約なく、世界最高峰の機材を導入できます。そこは「修行の場」であり「創造の工場」と言えます。東京の狭いスタジオで妥協して作るのではなく、圧倒的な空間的余裕がある環境で、妥協のないクオリティを追求する。
つまり、「東京でコネクト(接続)し、地方でクリエイト(創造)する」という役割分担です。
東京にすべてを詰め込んで、地価の変動やスペースの制約に振り回されるのは、JYPらしい合理的なやり方ではありません。 「配信という出口」は東京に、「練習と撮影という入り口」は最適化された地方に。この大胆な分散投資こそが、コストを最小限に抑えつつ、アウトプットの質を最大化させる、最強の布陣になるはずです。
東京以外のどこに撮影や練習スタジオを作るべきか
さて、地方に拠点を置くならどこが良いのか…。
結論から言うと、消去法で考えても、答えは「神戸」がおススメ
まず、横浜や大阪は論外。理由は単純に土地代が高すぎで、見栄を捨てて機能に投資するのとは真逆になってしまいます。都心に近いこれらのエリアで広大な敷地を確保しようとすれば、予算の大部分が「土地代」という、何も生み出さない資産に消えてしまいます。それは、ソウルの新社屋で陥っている問題の二の舞になってしまいます。設備に回すべき金を土地に払うのは、経営的に正しくない。
次に、埼玉や名古屋。ここでのボトルネックは「アクセス」です。 特に埼玉は、成田空港からの距離が遠すぎます。アーティストや海外スタッフが空港に降り立ってから拠点に辿り着くまでに、どれだけの時間を浪費するか…。また渋滞問題もあります。エンタメ業界において、移動時間は最大の「ロス」であり、アーティストの疲労に直結します。名古屋にしても、グローバルな移動動線を考えたとき、決定的な決め手に欠けるといえます。
そこで、神戸です。 神戸が最適解になる理由は、極めてシンプルで強力な「物流の合理性」にあります。
最大のポイントは、神戸空港から韓国への直通便があること。 アーティストやスタッフが韓国から飛び立ち、神戸空港に降り立った瞬間から、拠点へのアクセスが極めてスムーズに完結します。成田や羽田に降りて、そこから数時間かけて地方へ移動するという不毛な時間を完全にカットできます。この「移動時間の短縮」こそが、アーティストのコンディション維持と、制作スピードの向上に直結するといえます。
さらに、確保した土地へのアクセスが楽であること。 空港から拠点までストレスなく移動でき、かつ土地代が都市部より圧倒的に抑えられるなら、その浮いた巨額の資本をすべて「最新のLED壁面」や「最高峰の配信設備」に投下できます。加えてホテルなどの宿泊施設のある三宮まで車で30分というアクセスなのでonとoffを分けやすい点もあります。
横浜や大阪のような「場所のブランド」に金を払うのではなく、神戸という「機能的なハブ」に投資する。これこそが、最も合理的で最も実質的な戦略的な選択といえます。
神戸ならどこに作るのか?
1. 「ウォーターフロントの罠」を回避
まず結論から言えば、神戸ハーバーランドのような「観光地・都心部」にスタジオを建てるのは最悪の選択肢といえます。
理由は単純。コストと機能のバランスが崩れるからです。
- 地価の浪費: 1平方メートルあたりのコストを「立地」に払うのではなく、「設備」に払うべきです。
- 物流の困難: 巨大なLEDパネルや音響機材、大型のセットを搬入・搬出する際、観光地の渋滞や狭い道路は致命的なボトルネックになります。
- 「見栄」のコスト: 都心に建てれば、外観を豪華にせざるを得ません。結果として、スタジオの中身を削って外装に金をかけるという本末転倒な状況に陥ってしまいます。
2. 狙うべきは「工業的機能美」が残るエリア
撮影スタジオとライブ練習場に求められるのは、「広大な床面積」「高い天井高(吹き抜け)」「徹底した遮音環境」、そして「大型車両のアクセス」です。
この条件を満たすのは、都心ではなく、神戸の「工業系埋立地」や「都市計画上の工業地域(準工業地域)」です。
具体的に挙げるなら、以下のエリア。
① ポートアイランド・六甲アイランドの「工業・物流ゾーン」
ここにはもともと大規模な倉庫や工場が集積しています。
- メリット: 敷地面積を大きく確保でき、大型トラックの出入りが前提のインフラが整っている。
- 戦略: 「外見はシンプルな倉庫風のブラックボックス」だが、「内部は世界最高峰のバーチャルスタジオ(LEDウォール)」というギャップを作る。
② 西神エリア、あるいは北区の広大な緩衝地帯
より静寂と広さを求めるなら、内陸側の工業団地や開発予定地が候補に入る。
- メリット: 遮音対策が容易であり、アーティストが世間の目を気にせず、没入して練習に打ち込める環境を構築できる。
- 戦略: 練習スタジオを単なる部屋ではなく、実際のコンサート会場に近い「スケール感」で設計し、リハーサル精度を極限まで高める。
ポートアイランドと六甲アイランドは神戸空谷からのアクセスはいいのですが、台風や高潮が生じた場合に水没してしまうというリスクが考えられるので、山側に作ったほうが無難と言えそうです。
神戸コンテンツ制作拠点の建築仕様書
JYPの日本での事業展開を考えたとき、単純に「大きなスタジオを一つ作ればいい」という話ではありません。
韓国で大型スタジアムやドーム公演を行うアーティストが増え、日本でもK-POPをはじめとする海外アーティストの映像制作やリハーサル需要が拡大しています。
そこで考えたいのが、大型ライブのリハーサル、MV撮影、ドラマ・映画、CM、バーチャルプロダクションなどに対応できる大型制作拠点です。
個人的に現実的だと思うのは、総敷地面積で30,000~45,000㎡、延床面積40,000~60,000㎡程度。
最初から巨大な「完成形」を作るのではなく、将来的な拡張を前提にした規模です。
4棟を中心にした制作キャンパス
中心となるのは4つのスタジオ棟です。
まずA棟は、施設のフラッグシップとなるドーム対応型の大型スタジオ。
建築面積6,000~8,000㎡、延床面積8,000~10,000㎡、天井高18~22m程度を想定します。
ここは通常のダンス練習室ではありません。
スタジアムやドーム公演のステージセットを組んだ状態でリハーサルできることを目的とし、サブステージを含めた可変構造にします。
実際の公演に近い環境を作れるため、大型ツアー前のリハーサル拠点として大きな価値があります。
B棟はもう一つの大型スタジオ。
建築面積4,000~6,000㎡、延床5,000~7,000㎡、天井高15~18m程度で、A棟よりも汎用性を重視します。
大型リハーサルだけでなく、MV撮影、イベント、CM撮影などにも対応し、施設全体の稼働率を高める役割を持たせます。
そしてC棟はLEDに特化したスタジオです。
建築面積3,000~4,500㎡、延床4,000~6,000㎡、天井高12~15m程度。
ここは電力容量と空調能力を最初から厚くしておくことが重要です。
LEDウォールを大規模に使用するバーチャルプロダクションでは、映像機材だけでなく電力・冷却設備が重要になります。
ロケに出かける代わりにスタジオ内でさまざまな世界を作れるようになれば、天候に左右されにくく、制作効率も高められます。
D棟は中型スタジオとリハーサル用途。
建築面積2,500~3,500㎡、延床3,000~5,000㎡程度を想定します。
大型スタジオだけでは対応できない中小規模の案件を受け入れることで、施設全体の回転率を高めます。
「管理棟」が実は重要
スタジオだけを大きくしても、この施設は完成しません。
むしろ重要なのが、管理・共用・制作棟です。
延床6,000~10,000㎡程度を確保し、編集、MA、カラーグレーディング、オフィス、会議室、技術室などを集約します。
ここがいわば施設の「頭脳」です。
撮影した映像を別の場所へ運ぶのではなく、撮影から編集、音、カラーグレーディングまで一気通貫で処理できれば、制作拠点としての価値は大きく上がります。
さらに重要なのが宿泊施設です。
80~150室程度、延床5,000~10,000㎡ほどの宿泊棟を用意する。
大型MVやドラマ、海外アーティストのリハーサルでは、数日から数週間単位でスタッフやアーティストが滞在するケースがあります。
スタジオのすぐ近くに宿泊できれば、移動時間を削減できます。
これは単なるホテルではなく、制作効率を上げるための設備と考えるべきでしょう。
建物よりも「外の空間」が重要
大型スタジオを計画するとき、意外と忘れられやすいのが屋外スペースです。
大型トレーラーが入れる搬入口、セットの仮置き場、屋外撮影スペース、スタッフや関係者用の駐車場などが必要になります。
特に大型セットを扱う場合、建物の中だけで完結するわけではありません。
そのため、敷地の40~50%程度は屋外の搬入・物流・駐車・撮影などに使えるようにしておきたいところです。
建築面積の合計は約18,000~25,000㎡、屋外スペースとして15,000~20,000㎡程度を確保するイメージです。
結果として、総敷地面積は30,000~45,000㎡。
個人的には、その中でも35,000㎡前後が一つの現実的なラインだと思います。
最初から100%完成させない
そして、この施設を作るうえで非常に重要なのが「拡張性」です。
最初から敷地いっぱいに建物を建ててしまうと、将来的に設備を追加したくなったときに困ります。
例えば5棟目の大型ドームスタジオ、屋外ステージ、物流設備の強化などです。
そのため、土地については最初から20%程度の拡張余地を残しておく。
つまり、最初から巨大な完成形を作るのではなく、
「35,000㎡程度でスタートし、需要が増えれば拡張する」
という考え方です。
これは設備投資としても非常に重要です。
ケチってはいけない3つのポイント
逆に、最初からしっかり投資しておくべき部分もあります。
一つ目は天井高。
18~22mクラスの高さが必要な大型スタジオは、後から簡単に改修できません。
二つ目は電力容量。
大型LED、照明、映像機器、空調などを大量に使用するため、電力設備をケチると後から大きな制約になります。
三つ目は動線設計です。
アーティスト、スタッフ、外部レンタル利用者、搬入業者などの動線を分離する。
これはセキュリティだけでなく、撮影やリハーサルの効率にも直結します。
「小さな映画スタジオ+巨大ライブリハ施設」
こうして考えると、この施設は単なるJYPの練習場ではありません。
イメージとしては、
「小さな映画スタジオと、巨大なライブリハーサル施設を組み合わせた制作キャンパス」
です。
しかもJYPだけが使うのではなく、日本のアーティスト、韓国の他事務所、海外アーティスト、映画・ドラマ制作会社、広告会社などにも貸し出す。
そうすれば、JYPにとっては自社の制作インフラであると同時に、外部から収益を生み出す事業にもできます。
これなら「JYPのためだけに巨大な箱を作る」という発想から一歩進んで、アジアの映像・音楽制作拠点を作るという構想になります。
そして、この施設を最初から豪華な建築物にする必要はありません。
重要なのは外観ではなく、天井高、電力、LED、音響、搬入動線、編集設備、宿泊、そして将来の拡張性です。
つまり、
「最初から完成形を作るのではなく、必要な機能をしっかり作り、需要に合わせて大きくする」
これが、大型制作拠点を作るうえで最も現実的な考え方ではないでしょうか。
総敷地30,000~45,000㎡、延床40,000~60,000㎡。
4つのスタジオ棟に管理・ポストプロダクション棟、宿泊棟を組み合わせ、まずは35,000㎡前後から始める。
このくらいなら「大きすぎて持て余す施設」ではなく、将来的にアジアのアーティストや映像制作会社が集まる制作拠点へ成長できる余地を残した施設にできると思います。

JYPの日本大型制作拠点は単独投資ではなく「共同事業」にすべきではないか
これまでJYPの新社屋や日本での大型制作拠点について考えてきましたが、ここで一つ重要な問題があります。
それは、この巨大な施設をJYPだけで建設する必要があるのかということです。
私自身は、むしろJYP単独での建設には慎重です。
今回想定している施設は、総敷地30,000~45,000㎡、延床40,000~60,000㎡。大型ドーム対応のリハーサル施設、LEDスタジオ、中型スタジオ、ポストプロダクション、管理棟、宿泊施設、搬入スペースなどを備えた、いわば「音楽・映像制作キャンパス」です。
これをJYPの自社施設として建設してしまうと、土地代、建設費、設備投資、維持費までJYPが背負うことになります。
しかし、この施設を利用するのはJYPだけではありません。
韓国の他事務所、日本の芸能事務所、海外アーティスト、映画・ドラマ制作会社、広告会社、映像制作会社など、潜在的な利用者はかなり広い。
それならば、最初から「JYPの施設」ではなく「アジアのエンターテインメント制作拠点」という事業として考えるべきではないでしょうか。
JYPは「アンカーテナント」になる
この場合、JYPが担うべきなのは、必ずしも100%出資ではありません。
むしろJYPは主要出資者の一社として参加し、自社アーティストの大型リハーサルやMV撮影などを優先的に利用する「アンカーテナント」になる。
そうすれば、JYPにとっては自社の制作インフラを確保しながら、施設そのものの資産リスクを他社と分散できます。
これはJYPの資本効率という観点からも重要です。
JYPの株主として考えるなら、数百億円規模の資金をすべて一つの建物に固定するより、必要な機能を確保しながら、余った資金をアーティストの広告、MV、コンテンツ制作、海外展開などに回してもらいたい。
「建物を所有すること」より「建物を使って利益を生み出すこと」のほうが重要だからです。
では、誰と組むのがいいのか
ここで候補になるのが、まずソニーグループ/ソニーミュージックです。
JYPとソニーミュージックには、すでに「Nizi Project」という共同事業の実績があります。Nizi ProjectはソニーミュージックとJYPによる共同オーディションプロジェクトとして実施され、NiziUが誕生しました。さらにSeason 2からはNEXZも誕生しています。
つまり、両社には単なる取引先以上に、日本と韓国をまたいだアーティストビジネスの協業実績があります。
もし日本に大型制作拠点を作るなら、ソニーミュージックが参加する意味は大きいでしょう。
JYPはアーティスト・韓国側の制作ノウハウ、ソニーは日本市場や音楽・映像関連のネットワーク。
さらにソニー側の映像・カメラ・音響などの技術との連携まで考えれば、単なる不動産開発ではなく、次世代の音楽・映像制作拠点に発展させることもできます。
次に重要なのが三井不動産
そして、この計画で非常に相性が良いと思うのが三井不動産です。
三井不動産は、単なるオフィスビルのデベロッパーではありません。
2026年時点でロジスティクス事業では国内外88物件、総延床面積約630万㎡、累計投資額約1兆4,000億円まで事業を拡大しており、物流施設だけでなく、研究開発施設やデータセンターなど産業領域にも事業を広げています。
また、同社はスポーツ・エンターテインメント分野にも取り組んでおり、アリーナなどを含む街づくりも展開しています。
今回の施設は、一般的なオフィスビルとは違います。
広い敷地、大型搬入口、高い天井、大容量電力、特殊な空調、音響、LED設備、宿泊施設などが必要になります。
つまり、「特殊な用途の産業施設を開発して運営する」という能力が非常に重要です。
その点で、三井不動産を不動産・施設側のパートナーとして入れるのは合理的だと思います。
例えば、
JYP=コンテンツ・アーティスト
ソニー=音楽・映像・技術
三井不動産=土地・建物・施設運営
という役割分担です。
これならJYPが不動産会社になる必要もありません。
SMBCには「資金調達」の部分で参加してもらう
さらに金融面では、SMBCのような大手金融機関を巻き込む方法があります。
ここは必ずしも「SMBCが巨額の出資をする」という意味ではありません。
むしろプロジェクトファイナンスや融資、SPCを活用した資金調達など、施設を事業として成立させるための金融設計を担ってもらうという考え方です。
例えば施設そのものをSPCに保有させ、
JYP、ソニー、三井不動産などが出資。
そこに金融機関からの融資を組み合わせる。
そしてJYPなどのアンカーテナント収入に加えて、外部企業へのスタジオレンタル、撮影、リハーサル、宿泊、制作サービスなどから収益を得る。
この形なら、JYP単独で数百億円規模の投資を抱える必要がありません。
重要になるのが神戸市
この構想で抜けてはいけないのが、神戸市の存在です。
神戸にこの施設を誘致するのであれば、神戸市にも明確なメリットがあります。
大規模な土地利用、雇用創出、海外企業・アーティストの誘致、映像・音楽産業の集積、空港利用の増加、周辺産業への経済波及などです。
そのため神戸市には、単に「企業が建物を建てる場所を提供してください」とお願いするのではなく、地域産業政策の一環としてプロジェクトに参加してもらうという考え方ができます。
例えば土地の確保や賃貸、道路・上下水道などのインフラ整備、行政手続きの支援、企業誘致制度の活用などを組み合わせる。
場合によっては神戸市や関連機関が施設整備を支援し、民間企業が建物や設備を整備するという官民連携も考えられます。
神戸なら「土地+空港+産業拠点」の組み合わせができる
この構想をさらに面白くするのが神戸です。
東京の都心部で同じことをやろうとすれば、土地取得コストが大きな問題になります。
一方で、神戸なら国際的な人の移動と産業用地の確保を両立できる可能性があります。
特に今回想定しているような大型施設では、駅前の一等地よりも、
「空港からアクセスしやすく、大型車両が入り、広い土地を確保できること」
のほうが重要です。
だからこそ、神戸の産業エリアなどに制作キャンパスを作るという発想が出てきます。
しかも、以前から考えているように、個人的には海沿いよりも内陸側を優先したい。
大型LED設備や高価な撮影機材を大量に置く施設なら、塩害や高潮、液状化などへの長期的なリスクをできるだけ避けたいからです。
ASICSや川崎重工も「部分参加」なら面白い
ASICSや川崎重工業などを全面的な出資者として入れる必要はありませんが、特定分野のパートナーとして参加してもらう可能性もあります。
ASICSならアーティストの身体能力、ダンス、パフォーマンス、ウェア、シューズなどとの連携。
川崎重工なら大型設備、搬送、ステージ機構、ロボット・自動化技術など。
つまり、すべてを一つの会社に背負わせるのではなく、それぞれが得意分野を持ち寄るのです。
最も重要なのは「JYP専用施設」にしないこと
この計画で一番避けたいのは、立派な建物を作ったものの、JYPのアーティストが使わない期間は施設が眠ってしまうことです。
それでは巨大な固定費になってしまいます。
だからこそ、最初から外部利用を前提にします。
日本のロックバンド。
韓国の他事務所。
中国や東南アジアのアーティスト。
ハリウッドやアジア映画。
ドラマ。
CM。
ゲーム映像。
バーチャルプロダクション。
大型コンサートのリハーサル。
こうした案件を受け入れる。
そうすれば、JYPが使わない時間にも施設が稼働します。
「JYPの建物」ではなく「アジアの制作インフラ」に
最終的に目指したいのは、JYPの新しい支社でも、巨大な練習場でもありません。
アジアのアーティストが日本に来たら、ここを使う。
そんな制作インフラです。
JYPはその中心的な利用者であり、出資者の一社。
ソニーは音楽・映像・技術面。
三井不動産は土地・建物・運営面。
金融機関は資金調達面。
そして神戸側は土地、インフラ、地域との連携。
このように役割を分ければ、一社では難しい巨大プロジェクトも現実味が出てきます。
何よりJYP株主の立場からすると、この方式には大きなメリットがあります。
JYPは「必要な施設を使える権利」を確保しながら、「巨大な建物を全部自分で所有するリスク」を抑えられるからです。
JYPが本当にお金を使うべきなのは、豪華な建物そのものではありません。
アーティストを育て、世界に売り出し、MVを作り、ライブを行い、新しいIPを生み出すことです。
だからこそ、大型制作拠点を作るなら、
「JYPが全部払って全部持つ」のではなく、「JYPを中心に複数企業で作り、施設そのものも外部から収益を生む」
という形が一番面白いのではないでしょうか。
これは単なる新しいスタジオではありません。
うまく設計すれば、神戸に「アジアの音楽・映像制作のハブ」を作るプロジェクトになり得ます。
そしてJYPにとっては、豪華な本社ビルを持つこと以上に、はるかに本業に近いところで将来の成長基盤を作る投資になると思います。




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